「大自然を感じられる貴重な場所を残したい」と森の管理を始めました。しかし森を理解せず手を入れると、森をダメすることがあると知りました。2018年から森の勉強を始め、丁寧に自然をみながらの森の手入れを模索しています。
人間にとって良い自然を求めるだけでなく、「人間と自然の良い関係」を「森を知ること」を通して学んでいきたいと思います。
※「五頭山麓いこいの森」では、様々な森の状態を見ることができます。
(年数回「森の勉強会」を行っています。興味ある方はぜひご参加下さい)
森とは
多種多様な生き物が共存し変化する生命体
- 多様な生き物(苔・草・低木・高木・菌類・土の生き物)がいます。
- 多様な生き物(虫・動物・鳥)と共生しています。
- 森の木々は連絡を取り合い外敵の情報を伝達したり、植物は虫を呼んだり、森は生き物たちのコミュニケーションでいっぱいです。
(参考)NHKスペシャル「超・進化論 植物からのメッセージ」⇒
- 木々同士を繋げる土中の菌のネットワークでは、弱っているものに栄養を送るなど助けあっているとの研究もあります。(参考) 「 マザーツリー」(ダイヤモンド社)
〈1本の木をよ~くみてみましょう〉
そこには数えきれない植物や虫がいます。
土には無数の生き物が森を支えています。(虫やバクテリアや菌類、微生物達)
土中は、無数の菌糸のネットワークが張り巡らされています。
⇒土の生き物の世界(NHK for school)
地上で見られるキノコ。その土中は菌根菌が張り巡らされている。
(植物と菌根の助け合いの世界)
土中の世界は菌根がいっぱい。植物が光合成で得た栄養(糖)をもらい、土中の水やミネラルを植物に与えている。
*「jp私の森」「菌根の世界」より
(菌根ネットワークを通した
植物支え合いネットワーク)
森の地中に広がる菌根菌。それは樹木は子や仲間に、種を超えた支えあいのネットワーク。
〈森の語源〉
『盛り』~ 多種多様な木があり、深く生い茂るような所。
『守り』~うっそうとした中に神を宿し守護する神聖な場所。神社をモリと読んでいた。
「森」は、人があまり立ち入るような所ではなく、人間が自由に利用するには恐れ多いところ。「厳か,静か」という意味がある。
(鎮守の森)
- 「神が宿る神聖な場所」を森という形で地域や家周りに残してきた。
- 土地本来の多種多様な自然植生でシステムを形成している森。
(注)「林」:木が沢山あるだけ
「里山」:人が利用のため(キノコや山菜、薪等)で遷移(森の成長)を止めた状態
昔は、その植生のバランスを取りながら手を入れていた。
●森の遷移(森は成長する)
裸地→草本→低木→広葉樹の森→常緑の森
土の状態や光の量が植物により変化することで、森は年月をかけ移り変わっていきます。最終的に薄暗い静寂・崇高な雰囲気の森になっていきます。鎮守の森のよう常緑の樹も増えると安定した森となります。
裸地化した場所からの遷移
①草や苔で地面が覆われます。すると土が変化し、草の種類も変わってきます。
(この地域では~カキドオシ、ノイチゴ、クズ、笹、ススキ等)
②低木や 強い光や荒れ地で育つ樹(陽樹)が生えてきます。
(この地域の低木~アオキ・イヌガヤ・ヌルデ・ウツギ・ムラサキシキブ・ガマズミ・コマユミ等)
(この地域の陽樹~アカメガシワ・アカマツ・ネムノキ等)
③ 直射日光が減ると 広葉樹が生えてきます。
(この地域の広葉樹~コナラ・桜・クヌギ・クリ・クロモジ等)
④弱光条件になると常緑の樹が生えます。
(この地域の常緑樹~シラカシ・シロダモ・ヒサカキ等)
★「五頭山麓いこいの森」 は、昭和42年土石流で更地になった後、まずアカマツ林になりました。数十年をかけ現在は「コナラや桜」などの広葉樹が中心になり、アカマツは枯れ始めています。人の入らない奥の山は遷移が進み、常緑の樹も増えてきています。人が入る場所は、遷移も進まず常緑は少ないです。
★「里山」は、森のバランスを見ながら手を入れることで遷移(成長)を止めて生活に活用してきました。 ( 60年程度で部分的に循環させながら切って利用、また植えるというのを繰り返してきたと言われます。
①草や苔
②低木や陽樹
③広葉樹の森
③常緑の森
● 森の生態系(多様性のある共生)
森は、立体的にも水平的にも多種多様な植生とや生物。
動物・虫・菌類や微生物など様々な生き物が競争・共存混在
【立体的な植生と生態系】
共生のネットワークシステムはとても強く、帰化植物(外から入る植物)は入れない。この共生のネットワークバランスが崩れると森が弱わります。単一の植物がはびこるなど、森が崩れていきます。
〇立体的な繋がり(下から上に垂直な植生の重なり)
①土壌
②苔・草木・シダ類
③低木
④高木
〇水平の植生(外から中へ植生が変化)
森の外側(0.5~1m)には草や低木やツルなどの林縁植物が保護することで、高木の中を安定した環境に保っています。
- 強光や強風が入ると土が乾き、土壌生物が死に土が弱り、結果森が弱ります。
- 林縁植物は大雨でも土を流れにくくし、森が崩れていくことを防ぎます。
①草本類(ソデ群落):草やシダや木にならない植物が雨でも流れないよう保護。
②低木やツル性植物(マント群落 ):マントのように森を覆い強風や強光から防御
③高木:林縁植物に守られ高木のある森の中は、大雨・強風・強光から守られ安定。
【水平の植生】
★伐採や草刈りのやりすぎで植生が単純になったり明るくなりすぎると、本来1m内の林縁植物(クズ・ササ・野イチゴ等…)や雑草群落が入りこみ、藪になってしまいます。
★その土地本来の自然植生を混在し、林縁にマント・ソデ群落を帯状に置くことで、20~30年で森になり、手を加える必要がなくなります。
緑が壊れるのはあっという間。戻るには長い年月がかかります。
人間が生態系のバランスを崩すということは、そこで生きる無数の生命が奪われるということ。結果土が流されたり、気候変化をもたらすなど人にも影響が出てくることもあります。エリアごとに自然と人との関わりを精査し、草刈り機を使わず、鎌までここの森のバランスを見ながら管理を模索しています。
弱った森
下刈り後、人がどんどん入った場所。土が硬くなり土壌生物が住めなくなり森は弱ってしまいました。柵をし、人が入れないようにして回復中。
バランス崩れた植生
道路拡張後、バランスが崩れ単一の植生に。繰り返しクズを刈り、陰をつくれる陽樹や低木を活かし、自然植生に回復中。
土砂が流された森
深めの草刈り直後の日照りで草が枯れると、根で保護されていた土が大雨で大量に流された。土留めで土を保護し回復中。
「樹木医の話」
2018年、五頭山麓いこいの森で樹木医さんより「森の管理」「木の管理」について伺った
お話をまとめたものです。
枝下ろし(半年後)
幹と枝の境で切れば、切り口の周囲がかさぶたのように盛り上がり始めます。
枝下ろし(数年後)
正しい場所で枝下ろしすると、枝下ろしした場所は塞がれてきます。、傷を保護し木は傷みません。
枝下ろしの失敗
枝の途中で切ると、そこか腐り幹本体が腐り樹が弱ってきます。(スタブカット=中途切り)
◎植生・遷移
この辺りは、一時期水害でなくなって開けた広っぱになったそうなんですが、最初にススキだとか1年草、その後に生えてきたのは松。次に落葉樹に変わって、針葉樹、常緑樹が生えて最終的に常緑樹の森になっていく。
奥の方に松があって枯れている。松くい虫は悪いといわれているが、一番最初に入った松の木自体が弱っていって枯れていって、自然・森が遷移で変わっていく。
昔は里山の方がきれいだったというのは、普通は植生遷移が進んでいくものを、人間が例えば薪だとか炭だとかを取るために、切ることで植生遷移を止めていた。
植生遷移が進むと真っ暗になって、そこから芽が出てくるものは限られてしまう。こういう場所ではギャップ(間伐)してやって、明るい場所を作ることで新たな植物が生えて、人が薪などで利用していた。
◎適材適所に合わせた手入れ(森の遷移を場所によりどうするか)
遷移を進ませ(常緑に移行していく)暗くしたいならそのままでもいい。暗くなると植物の種類が一気に減り下草が少ないので人が入っていきやすくなる。暗いが見通しはよくなる。
みんなが遊ぶ場所を明るくしたいなら、手を入れ遷移を止めるといい。
◎木の状態の判断
(ひこばえ・胴吹き)
- 胴ぶきは、幹から枝が出てくる。ひこばえは幹の根元に、枝が出てくる。
- 木も枝数が少なくなると、ひこばえや胴ぶきが出てくる。ひこばえはパート社員で、胴ぶきは契約社員。契約社員は正社員になることができる。稼ぎが良くなれば残る。本体の具合がよくなれば、胴ぶきはいらなくなる。必要がなければ勝手に枯れるので、こちら側で切ってやる必要はない。切ってちダメ。この木が生きるためにはもっとたくさんの葉が必要、だからひこばえも大事。木の様子を見て、上の方が元気なら切ってもいい。
(樹皮)
冬のは雪の重みで枝が抜ける。抜けるだけならまだいいが、皮が剥がれていくと気が傷んでいく。
(桜の樹勢)
- キノコや苔が生えているというのはもう生育が悪い、停滞している。肥大成長をすれば皮がどんどん剥がれていくはず。コケがあるかどうかで木の良しあしが判る。
- 樹皮に傷があったり、剥がれたりというのがあるかどうか見るように。
(新陳代謝量)
- 樹皮の代謝量は、コケがあると新陳代謝が遅いということ。
(生育調査)
- 葉っぱの大きさを見るときは、短枝二葉目。その葉の大きさで生育を見極める(ずっと伸びているのが長枝、短いのが短枝)枝先の方が葉が大きい。これが基準。
- てっぺんの枝先の方が枯れているか見ること。枝は光を求めて伸びていく。葉っぱが極端になかったり、片方が欠けていないかを見ること。葉っぱの大きさは大きいか小さいか見る。葉の色は極端に黒っぽかったり、赤っぽかったり、黄色ぽかったりするかどうかを見る。新芽が出る場所でない場所を見る。
- 日陰になって生産しなくなった枝は、自分で落とす。会社に例えると枝は営業所。稼ぎのない営業所は閉鎖される。葉っぱは社員のようなもの で、稼ぎの無い葉っぱは落ちる。
- 杉は、自分で影を作って、自分で枝を淘汰している。
- 樹木がなぜ肥大成長するかというと、大きくなって、土台を作って、より高いところに光を占有しようとするため。伸びるだけなら太くなる必要はない。
◎枝下ろし
(時期)
- 秋、光合成が終わって、葉っぱを落として来年の体力を付けた時に枝を切ってやれば、一番ダメージがない。落葉樹は葉っぱが落ちたら枝を切れる。常緑・針葉樹も木全般的にこの時期
- 夏は光合成 が大きく生産性も高いが、気温が高く消費が多いから貯金が出来ない。ましてや、春先芽吹いた体力のない時期に、貯金を使ってエネルギーを作るようなものなので、収支がゼロになっている。そこで枝打ちすると体力がない時にはころっと枯れてしまう。造園屋がなぜ夏に切れるかというと、切ることで木を弱らせている。弱らせて限られた空間に収めている。素人はそんな時期に切ってはいけない。葉っぱを落として眠る時期なら、麻酔のかかった状態で大きな枝を切るという感じ。そこそこ大きい枝でも切れる。
- ここは雪の影響で、切る時期が春になってしまう。春のなるべく早い葉っぱの出ない時期ならOK。葉っぱが5月ぐらいまでの出始めならまだいいが、出てしまったらだめ。
(枝下ろしの方法)
- スタブカット(中途切り)、これはまずい。 適当な箇所で切ってしまうと木の腐りが進んで幹まで枯れてしまう。
- ナチュラルターゲットカット(幹と枝のつなぎ目で切る)がいい。樹木は切ると、傷口を飲み込もうとして、カルスという細胞分解を肥大させる。スタブカットにすると傷口が飲み切れず、包み込む前に菌が入り込んでしまう。的確に切ることによって傷口はすぐにふさがる。(冬の枝、雪で折れた枝の管理の仕方によって、木の状態が変わっていく)
- 墨汁や融合剤やトップジンを塗るとしたら、出来るだけ薄く塗る。粘土みたいなのを傷口に塗ると、木からでた水分が溜まってしまって余計腐る。3カ月ぐらいしか持たないから過信しないように
- 切り過ぎで幹の組織までいくことを、フラッシュカットという。フラッシュカットをやると、幹の下の部分が枯れ下がってしまう。
- 杉の枝は根元に傷をつければ、みんな折れる。手斧で十分。林業の世界では木の幹をえぐるようにするフラッシュカットが当たり前(柱の製材とするため)。普通の木でえぐると、カルスを作る組織まで壊してしまう
- 正しい切り方は下の方から切る。下の方に刃を入れてから上から切る。上から枝を切ってしまうと枝の重みで皮がずるずると幹まで剥けてしまう。
(見極め)
樹木医は「ビール瓶よりも太い枝は切るな」という。これが素人が手を出せる範囲。
ビール瓶程度なら、適切な位置で切れば傷口は割と短時間でふさがり菌が入らない。菌が入ると、腐って中に広がっていき空洞になると折れてしまう。
◎伐採
色々なところを伐採するのでなく、人が入る所は明るく遷移を止めるなど、見極めながら伐採するといい。昔からの森の状態を維持しなくてはならない。部分的に間引きをすることで、森が元気になることもある。
◎下刈り
下刈りをすると、人が入って土が踏み固められる。
土が硬くなると乾燥し、植物の生育が悪くなる。
◎木の根
- 枝先の末端ぐらいまで生えている 。肥料は木の根元にやっても、そこに根はないので根の先にやる。
- 木の根っこの先端にカビ、菌類などを住まわせて間借りさせてる。カビや菌類が集めて来た養分を使って光合成をして、光合成でできたエネルギーをカビなどに与えて、持ちつ持たれつの関係を作っている
- 根が土から出ている場合、この状態で安定していればそのままでいい。あまり被せると根っこが息できなくなる。 土を被せるのは、ほどほどに。
◇五頭山麓で見られる植物について◇
「樹木医さんの話~新潟(日本海)の植生」
多雪地帯の特徴は、温かい雪の下で常緑低木をつくる。関東には常緑樹の森があるが、新潟県では常緑樹は雪の下にあって低木になっている
※温かい地方にある植物は新潟県にもあるが、全部雪の下になる。それが特徴。
※関東の方の山、草津、赤城のあたりだと、常緑低木樹が逆にない。落葉樹の高木ばかりで草がなかったりする。
【低木】
「あおき」:新潟はヒメアオキ。新潟県の多雪地帯に適応している。
「ユズリハ」: 2mぐらいになる。関東だったら単木で7,8mになる
「イヌガヤ」「ツゲ」「モチノキ」:新潟県では雪の下にある
「ソヨゴ」:新潟県にあるモチノキの一種。オスメスがあり、メスにだけ赤い実がなる。
「ユキツバキ」:関東のヤブツバキの方が大きくなる。
「ガマズミ」:新潟にあるのはマルマガマズミ。これも雪国、日本海要素の代表的な植物
マルマガマズミは欲しい人がいても生産が少ないので高い。花芽分化はたいがい秋・春
「ヒサカキ」:雪の中に生える木で貴重
【広葉樹】
「さくら」
白かったらカスミザクラ、赤かったらオオヤマザクラ。ほとんどカスミザクラ。ヒガンザクラは新潟県では1カ所・五泉の山奥にあるが、エゾヒガンザクラやヒガンザクラは新潟県で自然植生としてはない。
「モミジ」
日本海側はヤマモミジ、関東側はイロハモミジとヤマモミジで住み分けしている
ヤマモミジの方が葉っぱが少し大きい。
ヤマモミジの色が赤かったり、黄色かったりするのは、寒暖差による。寒暖差が大きいほど赤っぽくなる。日の当たり方も関係あり、周りに木がなくなって日が当たれば赤くなる。光合成で葉っぱに蓄えられた栄養分が、温度が急に下がると、葉っぱの勢いが弱くなり葉緑素が分解される。そうして残った糖分がアントシアニンになると赤くなる。
「クヌギとアベマキ、栗」
この3種は葉っぱが似ている。クヌギとアベマキの木の実は似ている。アベマキはクヌギよりも表面がツルツルしている。アベマキはこの辺だと紫雲寺、岩船の方に大木が結構見られる。クヌギの木は、クリの木のような感じ。葉っぱが細長くて葉っぱの裏が緑。クリは葉っぱの裏が白っぽい。
「コナラとミズナラ」
葉っぱに葉柄があるのがコナラ。ミズナラは葉柄がない。葉の幅は、大小あるからあんまり判別の基準にはならない。剪定したり、生育がいいか悪いかでも変わってくる。
【常緑樹】
「カシとウラジロガシ」
新潟県に地勢がある。遷移が進むとシラカシのような常緑が生える。新潟県では天然のシラカシは貴重。